虫プロアニメラマ3部作
池袋新文芸座でオールナイトをやると知ってさっそく見に行った。
「アラビアンナイト」「クレオパトラ」「哀しみのベラドンナ」など、1969年から74年にかけて虫プロが発表した“大人のためのアニメーション長編映画だ。
「アラビアンナイト」は初見、「クレオパトラ」は原作で読んだのみ、「ベラドンナ」は20年前に一度渋谷の映画館で観ただけだ。ただこのときの「ベラドンナ」がものすごく印象に残っている。むちゃくちゃきれいで衝撃的だった。
そんなわけでオールナイト。カップルもそこそこいるがやはり男性が多い。年齢層は20代後半からおそらく60代くらいか。あまりはいってなかった。でもアニメが好きな人にはぜひ見てほしい作品だと思う。
ただし、この当時の大人のための、という意味は作品内容がアダルトであるということとイコールである。
とくに「アラビアンナイト」はすごいエロティック。内容はシンドバットの冒険を使っているのでまあそんな話だと思ってもらえば良いが、「女護ヶ島」という女性だけの島でセックス三昧の描写がある。これがとてつもなくえろっぽい。
そのものずばりを描いているわけではない。一本の線が次々とさまざまなセックスを感じさせるものでメタモルフォーゼしていくのだが、まさにエロスとアニメーションの面目躍如、アニメーションでなければできないエロス。線が面となり指になり手首になり絡まる腕になり足になり穴になり突起になり再び指になる。鉛筆のタッチで描かれた指がからめられ、その先が足のようにもみえ、もどかしく動いてまさに性的興奮を呼び覚ます。いやこれほんと子供に見せられない(ここの作画は杉井ギザブローさんだそうです)。
またキャラクターはやなせたかし氏。当時は今ほど有名でも売れっ子でもなかったそうなんですが、もともと色気のある絵だと思ってたんだけど、女性キャラも男性キャラもほんとうセクシー。なんていうか複雑なセクシーさ。かならず影をもったセクシーさっていうか。アンパンマンしか知らない人にはぜひ!
1969年のアニメというと、ひみつのアッコちゃん・海底少年マリン・長靴をはいた猫・ウメ星デンカ・紅三四郎・もーれつア太郎・どろろ・忍風カムイ外伝・六法やぶれクン・空飛ぶゆうれい船・タイガーマスク・ハクション大魔王 ・ムーミン・サザエさん・アタックNo.1・巨人の星などのリミテッドアニメ特有のカクカクした動き、単純な顔、いきなり説明もなしの場面転換とか今見るとちょっと辛かったりもするけど、アニメをつくるぞーという創世記のパワーがあふれる時代だ。そんな中でこのアラビアンナイトはなめらかな動きとスピーディな演出で今みても充分楽しめる。ちょっと実験アニメっぽい部分もある。
次の「クレオパトラ」はアダルトなシーンは少し控えめでどちらかといえばギャグに力をいれた作品。なんたってジュリアスシーザーがハナ肇で、クレオパトラに会った第一声が「あっとおどろくためごろー!」なんだから。
さて、内容は20世紀フォックスの超豪華映画「クレオパトラ」を観ていただくとして、虫プロ版の見所を。
一番最初の画面は未来の地球なんだけど、そこに現れるキャラクターにまず度肝を抜かれ大爆笑する。
実写なのだ。実写のキャラなのだ。しかも顔だけがアニメなのだ!!
おまけにこのアニメ顔が美しくない! むちゃくちゃぶさいく! こいつらがロボット(実写)の給仕でフレンチ喰ってやがる。そしてむりやりタイムマシンに乗せられるんだけど、そのへんの演出もなかなか笑かせてくれる
で、クレオパトラの時代に行くんだけど、ここからはアニメで安心。いや、安心じゃない。
この作品には当時の漫画・アニメのキャラクターがわんさか出てくる。虫プロだけじゃなくほんとにいろんな。漫画の神様手塚治虫に頼まれちゃ、どんな漫画家もことわれなかったんだろうけど。
街の観客にサザエさんやア太郎、イヤミがいたり、最初はなんだかうっとおしいなと思ってたんだけど、なんども繰り返されることによりじょじょに楽しみにもなってくる。助けてーの声でアトムが飛んできたり、シーザーがスパイを呼ぶとカムイがさっと現れたり、アントニウスにねずみ男が報告にきたり、無用ノ介が覗き見してたり、そのたびに場内には笑い声があがる(あーでもそういえばタツノコプロ作品はなかったな、吉田竜夫って手塚治虫とは交流なかったのかな、アメコミ画風だし)。
シリアスな流れをそういうコネタでいちいち止めるのはどうよ、って話もあるけど、もともと手塚漫画は重要なシーンやシリアスなシーンでもギャグをはさんでたから手塚漫画で育った当時の人々には違和感はなかったのかもなあ。
こちらも今見ても遜色のない作画。ただキャラクターが小島功なんで、顎がでている。小島功の細い線の女性だとまったく気にならないんだけど、アニメでしっかり描かれるとあの顎が気になる………。キャラのかわいさや色気では「アラビアンナイト」の勝ち。
最後の「ベラドンナ」は前2作と違いまったくギャグ色を排除したシリアスな美しい作品。美術はイラストレーター深井国。深井国の絵が動く動く。キャラクターデザインではなく、一枚絵を何十枚と描いている。動かしているのは本職のアニメータだけど、とにかく深井国の絵が美しい。
「ベラドンナ」の内容は、幸せいっぱいの新婚ジャンとジャンヌが領主に結婚の許可をとりにいくところから始まる。領主に規定の結婚税をだせなかったため、ジャンヌは領主他城の兵士たちに輪姦されてしまう。ここがすさまじい。
今まで前作2作のセックスは男の側から見てるためか、セックスすばらしい、さいこー、楽しい、気持ちいい、そして成功の象徴という感じに描かれていたのだが、これは女性主観で愛もなく犯される女性の激痛、恐怖、哀しみが全面を覆っている。
真っ白なジャンヌの足が大きくひろげられ、それは限界まで達するとめりめりと引き裂かれ、その真っ赤な血潮の中から無数のコウモリが飛び出しジャンヌを食い荒らしていく。そこには快感もなにもない、ただただ苦痛のみ。
たとえばエロゲーとかエロ漫画で犯されたかわいそうな女性の絵があったとしても、そこで描かれているのは作者の「どうです、こんなにかわいそうにぐっちょんぐっちょん犯されちゃいました。色っぽいでしょ、エロでしょ、興奮してよ」という男性の目が見えるのだがベラドンナにおいては犯されている最中もそのあともまったくそれはなく、ただただ苦痛と悲しみと惨めさだけ。
このあともジャンヌは何度も何度もそういう目にあうんだけど、毎回そう。夫のジャンとのセックスだけだ、見てて色っぽさを感じるのは。あ、領主の奥方と小姓のセックスシーンも色っぽかったな。やっぱり愛がないとエロスは感じられないのだな。真っ白なドレスの奥方(エルテっぽい)の動きがとても美しいです。
で、傷ついたジャンヌは心の中に悪魔を育てる。その悪魔の力を借りて夫は出世していくんだけど、その代償にさらなる不幸が襲い掛かる。まるでサラ金の悪循環のようにジャンヌは悪魔から逃れられない。
そして人々や夫にも裏切られたジャンヌがとうとう悪魔を受け入れ魔女になるシーン。悪魔の恐ろしさがあらわれるこのシーン。ジャンヌの肉体が破壊され魔女となるシーン。恐ろしいシーンからすばらしく美しいシーンへと変わるがここは林静一がグラスペインティング(撮影台の上で直に描きながら撮影していく)をしている。油彩で描かれた花々やキャラクターが刻々と色づき変化していく場面も衝撃的。あんなふうに絵が生まれていくさまはあの映画で初めて見た。
やがて国を黒死病が襲う。昔はわからなかったけど、今見るとこの街が崩壊していく様が大きな一枚絵のフルアニメーションだとわかる。どろどろと溶け崩れていく街のなんとダイナミックで恐ろしい破壊であることか。
魔女となったジャンヌは山の中で人々の病を治し、魔女の宴を催す。ここはエロティックな動きのある場面。大勢の人間が変化しながら絡まり蠢く。そしてそこに最愛の夫ジャンがやってくる………
最後にジャンヌがどうなるのか、それは映画を見て欲しい。今DVDが復刻されているそうなのでぜひ!
虫プロ・アニメラマ DVD-BOX (千夜一夜物語 / クレオパトラ / 哀しみのベラドンナ) | |
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コメント (2)
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投稿者: Davion | 2007年06月17日 09:33
日時: 2007年06月17日 09:33
Thank you!>Davion
Good color scaleっていうのがなにを指して言ってらっしゃるのかわかりませんが………。 scaleってうろこだよねえ………。写真のことかな?
投稿者: ruta | 2007年06月19日 04:49
日時: 2007年06月19日 04:49