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小説UPと「廃用身」

小説UP と「廃用身」

魔王さまと僕に「ハロウインの悪魔」UPしました。
ソレだけのはなしです。


        ***


「廃用身」読了。
すごくなんていうかある意味衝撃的な話です。
ネタバレしてますので読みたくない方はここでストップ。

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まずはお医者さんの手記から始まります。
とある老人病院の雇われ院長になった30代のお医者さんはそこで老人患者の持つさまざまな苦しみに直面します。
いろいろとあるんですがその中に介護のたいへんさがあげられます。
それは家族の介護のたいへんさだったり、スタッフのたいへんさだったり。
その中で気づきます。
体に障害のあるお年寄りが多いこと。
その中でも「廃用身」と呼ばれる回復の見込みがなくただぶらさげているマヒした手足を持つ老人が多いこと。
「廃用身」とは、脳梗塞などの麻痺で回復の見込みがない手足のことです。
そこで医師は考えました。この「廃用身」を取り除いてしまえば体重は減るし介護も楽ではないのか。
たとえば体重90キロのある老人のマヒした両足をとってしまえば体重が50キロになる。
そうすれば車椅子に乗せる時も下ろすときも楽だ。
しかし、動かないというだけで親からもらった五体を切断してしまうのはどうなのか。
医師もスタッフも患者本人もものすごく悩みます。
そんな中、ある老人の床ずれがひどくなって足が壊死してしまいます。
そこで切断実行。
その後を心配されましたが老人は床ずれの痛みからも開放され、体が軽くなったので両腕だけで移動もでき、癇癪持ちだった性格もなんとなく穏やかになりました。おまけにボケまで改善したようなのです。
医師は考えます。
ボケの原因の一端は脳への血液の流れが悪くなること。しかし今まで五体に回していた血が足に回らなくなった分、頭に回って血流量が増え痴呆が改善されたんじゃないか、と。
もっともこれはデータがとれるほど症例がないので医師の希望的憶測です。
しかし足を切断して元気になった老人の姿を見て、他の老人もマヒした部分をとってほしいといいだします。
医師は充分にカウンセリングをしたのち、「廃用身」を切断していきます。
あくまでも医師の思いやりと研究心から出発したこの療法ですが、それをマスコミが悪意をもって報道しはじめました。
「恐るべき老人医療、残酷な院長」
「老人の四肢を切断」
「手間を省くための措置」
最初は沈黙を守り無視していた医師ですが、ある時期から反撃にでます。
反撃すればますますおもしろおかしくかきたてるのがマスコミです。
医師はどんどんおいつめられていきます。
そして患者たちもおいつめられていきます。
その中で最悪の事態が起こります。
マスコミにはむちゃくちゃ受けのいい悲惨な事件です。
そしてとどめにある患者が自殺して遺書を残しました。
「私は切断したくなかった」
医師は打ちのめされてしまいます。
そして、「私の頭は、廃用身」と遺書を残し、線路に頭を預けて横たわりました………

医師の手記は終わり、そのあとは担当編集者が補足していきます。
医師は本当にマスコミに書かれたように冷酷な人間なのか。蝶の羽根をむしるように老人の手足をもいでいったのか。
この治療は本当にまちがっていたのか………。

廃用身
久坂部 羊
4344406397

これはフィクション、フィクションと唱えていなければ本当にあったことなのだと思い込んでしまいそうです。事実私はノンフィクションだと思い込みました。それほど医師やスタッフ、患者たちの描写が心が力を持って押し寄せてきたのです。
事実著者は老人デイケア施設などを得て、現在も在宅医療専門のクリニックに勤めています。現役の医師です。その現場でしかわからないこと、現場でないと感じないジレンマ、ストレス、アイデア、感情がこの作品を包んでいます。
読後、私は医師を責めることができませんでした。むしろこの治療はあってもいいのではないかとすら思いました。

著者である久坂部羊は言います。
「廃用身は精神的にもお年寄りを憂うつにするもので、その切断は実際にあってもおかしくないと現場医師として感じる。もちろん痴ほうの改善などは虚構だし、この残酷な療法が現実になるとは思っていない。だが事態は奇麗事で済まないところに来ており、何らかの厳しい選択は避けられないでしょう」

激しい選択。
それは近い将来私たちも必ずとらなければならない決断なのです。

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2006年11月03日 20:36に投稿されたエントリーのページです。

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